頚部・肩の疾患
反復性肩関節脱臼 (recurrent dislocation of the glenohumeral joint)
肩関節は反復性脱臼がもっとも頻発する関節です。
一般に外傷性肩関節脱臼は前方脱臼が多いので、反復性脱臼もまたほとんどが前方脱臼です。10歳代の外傷性脱臼の90%以上、20歳代で80%、30歳代で50%が反復性脱臼へ移行し、その70%以上が2年以内に初めての再脱臼を経験します。
原因として、初回の脱臼時に関節を構成している骨の剥離骨折や靭帯の断裂、筋や靭帯の弛緩、延長がおこり肩関節の安定性が悪くなるとされています。
症状
若い年齢層に多く、男女比は4:1といわれていますが,全身的な関節弛緩症を認めることもあります。
脱臼を起こしていないときはほとんど無症状か軽い倦怠感を訴えることがあります。
常に再脱臼しないかと心配しています。
投球動作やテニスのサーブ動作で容易に脱臼し痛みを来たすので、そのような動作を避けることが多いです。
検査
徒手的にanterior apprehension test(脱臼不安感テスト)を行います。
関節遺影では関節包の弛緩、拡大を認めます。
最近では関節遺影後CTおよびMRIを行い、確定診断には関節鏡が用いられています。
治療
外傷性脱臼後3~6週の固定とその後の運動療法によって反復性脱臼へ移行することは予防できるといわれています。
反復性脱臼の治療法として、保存的に筋力増強訓練を行いますが、根治的させるには手術を行うことが多いです。手術法として150以上の手技が発表されています。
棘上筋腱石灰性腱炎(supraspinatus calcific tendinitis)
加齢などにより変性した、インナーマッスルであり肩の上のほうにある棘上筋の腱内に急速な石灰沈着を起こします。石灰沈着は白色、泥状で二次的に直上の三角筋下滑液包(関節の動きをよくする液が入っている袋)へ拡がることがあります。
急性に発症し、部分的に強い痛みや熱をもつこともあり、白血球の増多も認められます。痛みは手までくることがあります。2~3週で三角筋下滑液包へ吸収され消失しますが、症状の強いときは穿刺,吸引しステロイド剤を注入することによって軽快します。
肩(回旋筋)腱板断裂(rotator cuff tears)
腱板は肩関節のほとんどすべての運動に際して圧迫・牽引・摩擦をうけ断裂する可能性があります。すなわち前方・後方挙上(たとえば投球動作)、垂直方向への圧迫(たとえば手をついて倒れたとき)、重量物挙上、回旋運動などです。また肩関節腱板付着部への直達外力によっても断裂しやすいです。もっとも損傷されやすい腱は棘上筋腱です。
棘上筋は生体内で2つの骨(肩峰および上腕骨頭)に挾まれた唯一の筋であり、肩関節外転時には肩峰、烏口結節靭帯によって圧迫、摩擦をうけやすく、筋自体も回旋筋群の中ではもっとも筋腹が短く腱性の部分が長いです。さらにその大結節付着部付近の血行は乏しい(critical zone)。従って年齢とともに変性、とくに硝子変性)に陥りやすく、断裂を起こしやすいです。
従って、腱板断裂は変性腱板に軽微な外力(例えば打撲)が加わって発生する場合と、活発な動作によって発生する場合とがあります。
分類
腰板断裂は滑液包側、関節包側、腱内全層断裂に分けることができ、関節鏡下に鑑別することが可能です。しかし手術を要するような患者は、ほとんどすべて全層断裂であって、水平断裂horizontal tear、垂直断裂vertical tear(以上第1度)、混合断裂(第II度、腰板の1/3の断裂)、完全断裂(第III度、上腕骨頭が完全露出、“billiard”balltear)に分けられます。腱板のうち、棘上筋腱が先ず断裂し、隷下筋腫(後方)、肩甲下筋(前方)へ広がります。
症状
主症状は疼痛と脱力である。肩の運動時に疼痛と脱力を訴え、他動的に腕を横に広げてあげようとすると、挙げる途中で痛みがでてきてあるところを過ぎると痛みが消失する(肩関節外転50~120)(painful arc syndrome)。夜間に痛みがでてきて患側の肩を下にしてねることができないことがあります。
診断
関節鏡や関節造影、MRIなどで診断します
治療
断裂した腱板そのものの自然修復は期待できないので主体は手術療法になります。
インピンジメント症候群(impingement syndrome)
症状
夜間に増強する疼痛。痛みのため肩関節を動かさないので、五十肩に類似する関節拘縮を伴うことがあります。検者が片手で肩甲骨を固定し、他方の手で患肢を軽度内旋位のまま長軸に沿って押しつつ他動的に挙上させると疼痛が再現します(impingement test)。
病態
腕を横に広げる動作により、肩の腱板と肩の関節の潤滑油をためる袋(肩峰下滑液包)は肩甲骨の上腕骨の間で挟まれてしまいます。このようなことが長期間続けられると腱板の慢性炎症と慢性肩峰下滑液包炎が発生します。
治療
ステロイドの肩峰下滑液包への注入。ときに肩峰形成術(肩峰前下面の切除)を要します。
肩関節窩上関節唇複合損傷(SLAP病変)(Superior labrum both anterior and posterior lesion)
症状
投球時やバレーボールのスパイク時の肩の違和感。しかし投球は可能なことが多い。そのせいか放置されることが多く二次的に前方不安定性に発展するなど多彩な症状を呈していることが考えられます。
病態・原因
肩関節上方は関節唇と上腕二頭筋長頭腱起始部の複合体で構成されています。
投球動作やスパイク動作の繰り返しによる肩の使いすぎや、ベーススライディング時に突き上げが作用すると損傷されやすいです。
診断
関節鏡検査で確定診断します。
治療
投球動作の一時中断しフォームの点検を行い、腱板機能訓練を行う。
関節鏡にて手術を行うこともあります。
五十肩
症状
肩関節の痛み、関節の動きが悪くなります(可動域制限)。
運動痛といって動かす時に痛みがありますが、あまり動かさないでいると肩の動きが悪くなってしまいます。
髪を洗ったり、服を着替えることが不自由になることがあります。夜間痛という夜にズキズキする痛み、ときに眠れないほどになることもあります。
原因
中年以降、特に50歳代に多くみられ、その病態は多彩です。
関節を構成する骨、軟骨、靭帯や腱などが老化して肩関節の周囲の組織に炎症が起きることが主な原因と考えられています。
肩関節の動きをよくする袋(肩峰下滑液包)や関節を包む袋(関節包)が癒着するとさらに動きが悪くなります(拘縮または凍結肩)
診断・検査
圧痛の部位や動きの状態などをみて診断します。
肩関節の関節包や滑液包(肩峰下滑液包を含む)の炎症のほかに、上腕二頭筋長頭腱炎、石灰沈着性滑液包炎、腱板断裂などがあります。
これらは、レントゲン撮影、関節遺影検査、MRI、超音波検査などで鑑別します。
治療
病態や病期を考慮しておこなわれます。
自然に治ることもありますが、放置すると日常生活が不自由になるばかりでなく、癒着して動かなくなることもあります。
急性期には、三角巾、アームスリングなどで安静をはかり、消炎鎮痛薬の内服、注射などが有効です。急性期をすぎたら、温熱療法(ホットパック、入浴など)や運動療法(拘縮予防や筋肉の強化)などのリハビリを行います。
早期回復を望む場合や経過が長い場合は「サイレントマニピュレーション」を実施します。
振り子運動
立った状態で腰をまげ、片手(痛くない方)を机や椅子の背もたれにつきます。痛いほうの腕を脱力し、ぶらんぶらんの状態にします。
足は前後に開いておくと良いです。その状態で身体を揺らし脱力させた腕を振ります。
500グラム位のおもり(ペットボトルに水をいれた物など)を持って行ってもいいでしょう。
下げた腕の力で振るのではなく、身体をゆすって動かす事と痛みのない範囲で動かす事がポイントです。
頚椎症
主な症状
- 上肢の脊髄症状
手のこわばり感、すばやい動作の障害、巧緻動作(指先の細かな動作)の障害、手指の感覚障害、筋力低下、腱反射の亢進や病的反射の出現 - 上肢の神経根症状
- 局所の症状
- 下肢の脊髄症状
- 膀胱直腸障害
肩甲骨から腕にかけてのびりびり感、痺れ感、筋力低下、筋の萎縮、腱反射の低下
首や肩甲骨付近の痛みやこり。首を動うごかすと痛みが増強。
下肢のびりびり感、感覚障害、歩行障害(もつれるなど)、こわばり、腱反射亢進、病的反射の出現。
排尿障害や排便障害
原因
頚椎の退行変性により骨棘(骨のとげ)が形成され、加齢とともに徐々に大きくなっていき、それにより脊髄や神経を通す穴が狭くなり圧迫症状として、脊髄症や神経根症を生ずることになります。
診断・検査
- レントゲン撮影
- MRI検査
- CT検査
- 脊髄造影
- 電気生理学的検査:筋電図や神経伝達速度を使って、2箇所以上の椎間に病変があるときどこが主な病巣かある程度診断できます。
治療
- 薬物療法:消炎鎮痛剤、ビタミンB製剤、筋弛緩剤
- 装具療法:頚椎カラーなど
- 理学療法:首を軽く前にまげての牽引療法や温熱療法
- 手術療法:症状により適切な方法が選択されます
良い姿勢を保ち、首にかかる負担をできるだけ減らしましょう。
上肢、下肢ともに筋力よりも巧緻動作やすばやい動作、歩行速度やバランスが障害されやすいです。